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南の島から絵葉書が届いた。旅先でも郵便物が受け取れるシステムがあることは知っていたけれど、たまたま訪ねたセンターでそれを渡された時は少し感動してしまった。ガジェットの進化も著しい昨今、紙での連絡なんて必要ないのかな、なんて思っていたけれど、手のひらと同じほどの紙板一枚でこんなにも嬉しいのは不思議だ。宿で読もうと思っていたけれど、気になって仕方がないので途中の公園にベンチを見つけて腰かける。夕暮れの公園では遊具の影が伸びて、子供たちのさよならが響く。バクフーンは大人しく、ヒビキの足元に伏せた。表には、アローラでも特に有名な海岸の写真が印刷されている。明るい水色の穏やかな渚はホウエン地方を訪れたときに眺めた海を思い出させて、なんだか懐かしい気持ちになる。でもそこには見たことのないポケモンも映っていて、まだ行ったことのない場所への憧れが一緒に湧き出た。(いいな)裏返すと、宛名の隣にメッセージが添えられている。受け取って真っ先に確認したから差出人がグリーンだというのは分かっていたけれど、つらつらと書き連ねられた近況はあまりに彼らしく、名前がなくても彼からだと分かっただろう。アローラに招かれたこと、暖かく穏やかな気候のこと、見たことのないポケモンや独特な進化形態のこと。多分言いたいことがありすぎたのだろう、狭い空白を埋め尽くす筆跡はしかし、変わらず綺麗だった。文字を追うだけでワクワクするのは、書いている人が本当に楽しんでいるからだろう。微笑ましいような、羨ましいような気持ちで追いかける筆跡はでも、すぐに最後の一行で。(あ、れ?)驚いたのは、グリーンの書いた‶bye!〟の後ろに、違う人間の筆跡が見えたからだ。硬くてぎこちなく、手紙を書きなれないのか所々にインクだまり。‶またバトルしよう〟なるほどそう言うことかと思う。グリーンがこんなに楽し気な、言ってしまえば浮かれた絵葉書を送ってよこしたのは。(レッドさんもいるんだ)思わず漏れた苦笑いは、珍しく浮かれたグリーンの隣に、どこに行ってもバトルのことしか考えていないレッドがいる光景が簡単に想像できたからだ。(いいな)ヒビキは顔を持ち上げて、次第に紺色に変わっていく空を見つめる。思い出さないようにしていたせいで、いざ思い出そうとするとうまくいかない。ばふ、とバクフーンが鳴いたので、何ともなしに顔をそちらに向ける。どこか遠くを見つめている、その視線を追いかけると。「あ」そこには噴水があった。その周りで、小さな男の子とワニノコが一緒に遊んでいた。きゃあきゃあとはしゃぐ一人と一匹はどちらも満面の笑みを浮かべている。すぐそばには母親らしい女性がいて、優しくその姿を見つめている。しかし時間になったのか、「そろそろおうちにかえるわよ」とフカフカとしたタオルを取りだすと、逃げ回る子供とワニノコを追いかけはじめた。「……お前も」彼らは元気にしているだろうか。「会いたくなっちゃった?」ヒビキが声をかけると、バクフーンはまたばふ、と小さく鳴いた。知らぬ間に陽は沈みきって、公園にはもう誰もいない。さっきの子供も、ワニノコも、目を逸らした瞬間に消えていた。弱くヒュウっと吹いた風は少し冷たく、バクフーンの背中に優しく灯る炎を揺らした。「……行こっか」ヒビキが立ち上がると、バクフーンもそれに倣う。小さな町は空がひらけていて、のぼった月は白く光り始めている。思い出して会いたくなる瞬間は何度だってあるのに、どうしたら会えるのかはわからない。今彼がどこにいるのかもわからない。ジョウトに帰れば、カントーに向かえば会える、という訳でもなさそうだというのは、この数年の経験で分かった。なのに、思いもよらない場所で出会ったり、すれ違ったりすることはある。どうすれば会えるのだろう。偶然に頼らず、必然を待たず。手を伸ばす方法は、まだ分からない。ふ、とらしくなく諦めのため息を漏らしたとき、仕舞うのが惜しくて手に持っていた絵葉書を、バクフーンが鼻先でつついた。「……あ」そうか、と思った。もちろん、届くかは知らない。うまくいかない可能性の方が高い。それでも、何もしないのは性に合わない。「そうだね」絵葉書を贈ろう。どんな景色が良いだろう。アローラの海辺よりもうんと美しくて、懐かしくて、そして、一緒に行きたくなるような。「よしっ」顔を上げると、丸い月の浮かぶ紺色の空に突きささる、白い山が見えた。
※※※※※※
ごうごうと音がする。視界は白く染まっている。肌は寒さに慣れきって、まつ毛が凍るから瞬きも重たい。(……あ)白く霞む視界の、その向こうに人影が見える。灰色に滲みながら、こちらに近づいてくる。不思議と恐怖は感じない。それどころか、待ち望んでいたような気さえ、して。知らず右手に収めていたモンスターボールをぎゅっと握ると、さく、と雪を踏みしめる音が聞こえた。安堵と緊張、焦りと余裕、冷え切ったはずのつま先から血の湧くような感覚と一緒に、左足を一歩、踏み出したその瞬間だった。「……え?」踏みしめた足裏からぶわりと現れたのは、緑色の葉、茎、蔓。一瞬で身体を覆うほどの高さになったかと思うと、荒れ狂い吠えていた吹雪を押し返すように緑色の草花がしげった。途端に陽が射し、見上げた空は目を傷めるほど青く。「……」ジワリと背中に汗をかいた。
「……ゆ、め」目を開けると、そこには吹雪もなければ、茂る緑もなかった。少し高い天井はぼんやりと青白く、カーテンの隙間から入り込んだ陽光が一本の白い線を引いている。背中にかいた汗だけは本物だけれど、マットレスもシーツも上質なら不快感はほとんどない。「……」アローラ滞在用に用意された宿泊施設は些かリゾート感が強くて、ぼくはしばしば逃げ出したくなる。雑魚寝や安宿はおろか野宿にだって慣れ過ぎていて、高級寝具は寝入りと寝起きがソワソワして落ち着かないのだ。それでもこらえてここにいるのは多分。「ん、う」グリーンが嬉しそうにしているからだ。(……おきた?)おはよう、と囁く準備をしたのに、グリーンはすう、と一つ息を吸うと、またすやすやと寝息を落ち着かせてしまった。(……ねてる)毎日のようにお互いの部屋を行き来して、別のベッドに入る日の方が少ない。この間けんかをして一人でベッドを使ったときは、あんまり広くて寂しいので手持ちのポケモンを全部出してベッドに乗せた。それはグリーンも同じだったらしく、次の日には仲直りをした。今、グリーンを置いて出て行ったら、しばらく口をきいてもらえないに違いないのだ。アローラに来てしばらくは、こんなふうにまどろみを楽しむことなんてしなかった。目が覚めると、“行かなきゃ”という気持ちに急かされて、用もないのに着替えたりした。グリーンはそんなぼくを見つけるたびに、不安そうな目をして聞いた。「どこにいくんだ」って。(……あったかい)ポケモンのあたたかさとヒトの温かさは違うって、教えてくれたのはグリーンだ。寒い夜にピカチュウを抱きしめたり、ピジョットのお腹を借りるのとは違う。別に寒く無くても、寝苦しいほどに暑い夜にだって感じていたい、大切なぬくもり。「……グリーン」起きてほしいのに、目を開けてほしいのに、ぼくには方法が分からない。グリーンはいつもぼくをひどいやり方で起こすけれど、同じやり方をしようとは何故か思わなかった。いつもなら、見つめていれば言いたいことを全部分かってくれる瞳が、今は夢の中だ。何の夢を見ているのだろう。ぼくの夢ならいいのに。「……」グリーンの代わり、返事を欲しがるぼくに答えたのはその胸元の石だった。彼の身動ぎに合わせて、ささやかな部屋の光を吸い込んで煌めく。(……きれい)旅人の多いこの世界には、絆を結ぶためのおまじないがいくつもある。大切な人と心まで離れてしまわないように。旅立つ我が子に贈るもの、任地に赴く家族へ送るもの、恋人や配偶者の無事と帰還を祈るもの。その多くは身に付けられるお守りやアクセサリーの形をしていた。(……似合う)シロガネ山を降りてもそばにいる約束ができなかったぼくは、地域によって形を変えるおまじないを見つけるたびに、手に取ってはやめて、眺めては目を逸らした。彼に似合うものが、見つからなかったからだ。ある火山へと続く道のりでのことだった。まだ木々の茂る森のエリアで、きらりとひかるものを見つけた。陰に置くと赤いのに、陽にかざすと緑に光る。進化の石かとも思って持ち込んだ店の店主の曰く、結晶化する間に二つの要素を持ったせいで、どちらにもならなかった珍しい石だという。ポケモンを進化させる力はないが、少し不思議な力―持ち主を守ったり、慰めたりするような―を持っているらしい。ヘタをすれば進化の石よりも高額で取引がされるというそれを、店主は欲しがったけれど、たった一人のことを考えていたぼくは、買取価格も聞かずに店を出た。値段くらいは聞いておいても良かったかな。手に入れた石を上手に加工してもらうために信用できる店に寄ったら、一月ほど遠回りをした。グリーンはぼくの遅刻を怒ったし、相変わらず高飛車な言葉を返したけれど、声は震えていたし、目尻は濡れていたし、頬も耳も赤かったし、ぼくの贈ったチャームを、ものすごく高価そうなチェーンに通して、信じられないくらい綺麗な顔をしたから、多分気に入ったんだと思う。「……起きて」頬に触れるとサラサラしている。陽に焼けたくないなんていって肌の手入れをちゃんとしているからだろうか。髪に触れるといい香りがする。多分ぼくからも同じ匂いがしている。「おきて」‶いつまでこうしていられるんだろうな〟なんて言って、グリーンはたまに、酷く不安そうにする。でも君を疑うことができないぼくは、その不安を解ってあげられない。いつだったか、それならせめてと証を欲しがる彼に応える形で、はじめて素肌に触れたのは。あの夜に感じた熱は、ほのおタイプの攻撃で火傷をしたときよりあつかった。心に残った火傷は美しい跡になって、多分一生消えない。「ね、おきて」離れているあいだ、どうしようもなく触れたい夜だってたくさんあった。そういうときは、君の内側に入り込んだ記憶さえあれば自分の掌だけで欲望は大人しくなった。でも、辛いのはその後だ。寂しさは欲望の何倍も強くぼくの足を重くした。グリーンをモンスターボールに入れて持ち運べたらいいのになんてことを考えながら、小さなボールでぼくを待って眠っているのを想像して、気分が悪くなるくらい悲しくなって、そんなひどいことはできないなんて真逆のことを考えた。だから多分、今、ぼくは幸せなんだと思う。「グリーン」「……うる、せぇ」知らないうちにぼくは、グリーンの、実はイーブイみたいにふわふわな頭を抱きこんでしまっていた。腕の中から聞こえた声はかすれていて、こういうのを〝セクシー〟って言うんだって、最近ようやく知った。「みみもとで、しゃべんな」そんなことを言いながら、離れていこうとはしない。それどころか、ぼくのむなもとの鎖骨のあたりに額をすりつけて、甘えるようにして。「……」こういう朝は珍しいのだ。バトルツリーでバトルがある日は競うように朝の支度をするし、今日みたいに休みの日は観光にショッピングにポケモン研究にと忙しい男だから。「……ね、起きよう」腕を腰に回して抱きよせると、嫌がるどころか膝で太ももを撫でてくる。調子にのって首筋の匂いを嗅ぐと、少し高めのボディソープにグリーンの匂いが混ざって甘い。思わずぺろと舐めるとびくん!と身体を震わせるから面白くってふふっと笑うと、首筋をがぶと噛まれた。「いてっ」「ばか、舐めるな」「……ねぇ、グリーン」ぼくはこのまま、シーツに浮かんでいてもいいんだけど、そうすると君は後悔するだろう?あれもできたのに、これもできたのに。「……ンだよ」おまえにあれを見せたかったのに、と。「行きたいところ、あるんでしょ?」昨日話してくれたよね。少し離れた場所に美味しいご飯の食べられるお店があって、そのそばに静かなビーチがある。夕暮れ時は海面が不思議なピンクに染まって、運が良ければ何かの群れに出会えるとか、なんとか。「……ちゃんと聞いてたんだな、オレの話」「……」ちょっと驚いた顔をするのは、少し失礼じゃないのかな。でもその後、嬉しいのを我慢して口元がもにゃもにゃしているのが可愛いから許してあげる。多分、ずっと隣にはいられない。それでも別れは選べない。この滞在が終わったら、次にいつ会えるかもわからない。でも絶対に僕らは出会う。世界はそうやって作られている。だからねぇ、今は。「ほら、グリーン」温もりを分け合いながら、眩しい日差しを浴びながら、「今日は、どうする?」からだじゅうで幸せを感じながら。「何がしたい?」これからの話をさせてよ。PR -
レグリ(んとさんへ)
プレイ中、バトル後去っていくライバルに対してどんなに十字キーを押しても追いかけていけないことに絶望して書いた記憶があります。
※SSリメイク時点で書いた
※レッドの一人称がぼく
※相棒がバクフーン
※ほんのりヒビライ
[chapter:昔話をしようか]
「これは、まだぼくが君だった時の話」
雪が降っている。冷たい風が吹く。意味の分からない前置きをして、彼は話を始めた。その足元のピカチュウは既に臨戦態勢で、こちら側にいるバクフーンとにらみ合っている。
ヒビキは返事の代わりに、ごくりと唾を飲みこんだ。
「君は、誰の意思でそこにいるか答えられる?」
シロガネ山の頂上には、自分たち以外には誰もいない。もう随分遠くなったふもとに、ポケモンセンターがあるのみだ。
雪が降っている。なのに、不思議だ。本来あるべき刺すような冷たさを感じることは、無い。
「ぼくはここに来るまで、何もわからなかった。ただ、何か得体の知れないものに操作されて、自分の意志がどこにあるかもわからないまま旅を続けていた」
バクフーンの背中の炎に、雪が落ちては融けて消えていく。それでも景色は白い。その先に青空があるなんて信じられないほどに、色のない世界だ。
「何のための旅かは分からなかった。何となく浮かぶ道筋をひたすら追い駆けていた」
よく喋る奴だ、と思った。その声からは、声を出すこと一つにさえ、喜んでいるような昂揚が感じられた。恍惚としているようにも思えた。何故だか嫌な気分になって黙って睨み付けるが、相手は怯む様子もなく淡々と話を続ける。
「そんなぼくの旅には欠かせない人物がいた。君もここにいるなら会ったろ、グリーン…」
名前を口にした一瞬、その喜びが頂点に至ったような表情を見た、気がした。しかしその顔はすぐに切なげなものに変わる。
「グリーンという名の、やたら挑発的な少年。いや、もう青年かも知れない」
たしかトキワのジムリーダーの、とヒビキはその姿を思い浮かべる。でもなぜ目の前の彼が、あの人を知っているのだろう。
その疑問を見透かしたかのように、彼は話を続ける。
「彼は……」
雪は止まない。静かな山頂に時折吹く風は雪を躍らせるだけで、山の景色は微動だにせず時を止めたようにそこに在り続けている。
「ぼくのライバル、だった……いや、今でもそうだ」
ライバル、という言葉に、浮かび上がる姿があるような気がして、でも、吹雪の向こうに霞んで見えない。
「きっと君にもいるんだろうね、ライバルと言うにはちょっと張り合いがなくて、積極的で鬱陶しくて」
話し続ける彼の選ぶ言葉は相手を馬鹿にしているようにさえ聞こえるのに、声は酷く切ない音をして、雪と雪の間に震えている。
「だけど無視できない、ライバル」
“ヒビキ!”
吹雪の音をかき分けて、赤い髪の生意気な少年の声が聞こえた。そういえば今頃どうしているのかと思う。竜の穴にいると聞いたのはいつのことだっただろう。
「ぼくはね、彼に届きたかった。バトルの力じゃない。ぼくも欲しかったんだ、自分の意志が」
声は依然として切なげに響いている。風が吹いている。雪が、舞う。目の前の少年は喋り続けるのに、自分はまるで耳しか持っていないみたいに、それを聞き続けることしかできなくて。
「レッド、レッドとぼくの名を呼んでは、負けるためのバトルを挑んで、それでも前に進む彼に届きたかった」
頭の中で、赤い髪の彼が自分の名前を呼ぶ。一方的に挑発的な言葉をまくしたてる。
俺は彼の名前を知っているけれど。
「名前を呼びたかった」
呼んだことは、あっただろうか。いつもその背中を見送ってはいなかったか。
「追いかけたかった」
追いかけたこと?あるわけがない。ただ、見送っていた、それだけが真実だった。彼に名前を呼ばれて、一方的な話を聞いて、背中を見送って。
「グリーンが目の前でぼくに笑いかけるのに、ぼくは動くことも話をすることも、笑いかけることすら」
そしてどうした?
「できなかったんだ」
何もしなかった。できなかった。
なら、それはどうして?
今、苦しげに歪んでいるのは目の前の彼の顔か、それとも自分の顔か。
わからない。何も。なぜこの足はいつも、いつまでも、何度呼ばれても、動かない、動けないままで。
「だから、ぼくはここにいた。誰もいないここで、ただの“レッド"になれる日を待った」
恐る恐るうかがった彼の表情はかたいままで、しかし、どちらかと言えば微笑みだった。
それはまるで、何かから、解放されたような。
「ぼくを倒してくれる誰かが、この世界に現れるのをずっと待っていたんだ」
自由を手に入れた、獣のような。
安らかに獰猛な目元は、この人が今までの誰より強いのだということをヒビキに教える。
レッドの足元で、ピカチュウの頬がピリッと小さな火花を散らす。
緊張がはしる。
「君が」
雪は降りつづける。まるで世界の初めから終わりまで景色を変えるつもりがないような静けさで、降る。
「新しい主人公?」
次第に力のこもる声を聞く。なぜか、何とも言えない、とても嫌な気持ちになった。自分が自分でないような、感覚。
錯覚?
「やっと、きてくれた」
レッドの声が喜色を含むと、ヒビキの心は反比例して酷く悲しく苛立つ。
どうして?
帽子のつばの影の下できらりと光ったレッドの瞳がついにこちらをとらえるとき、背筋が、ゾクリと粟立った。
(これでやっと、彼に触れられる)
その瞳から声ではない、その、彼のこころが確かに聞こえた。挑発的な目元、赤い色の少し長い髪、そう、シルバーの背中が、残酷に遠のいていくのを感じる。
風の音が聞こえてくる。今更、冷たさが肌を指す。緊迫した空気が、相手の本気を嫌という程伝えてくる。ここはまさしく、どんなジムより、誰が準備したフィールドより、バトルに相応しかった。
「とりあえず」
隣で、バクフーンが腰を落とす。レッドの足元のピカチュウが上体を伏せる。炎と電気がそれぞれにバチリと爆ぜるような音をたてた。
「バトルしようよ」
シロガネ山には、ただただ冷たく刺すような空気が満ちている。