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grille

時間をかけて火を通し、柔らかく仕上げました。

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昔話をしようか(レグリ)

レグリ(んとさんへ)

プレイ中、バトル後去っていくライバルに対してどんなに十字キーを押しても追いかけていけないことに絶望して書いた記憶があります。

※SSリメイク時点で書いた
※レッドの一人称がぼく
※相棒がバクフーン
※ほんのりヒビライ


[chapter:昔話をしようか]

「これは、まだぼくが君だった時の話」

 雪が降っている。冷たい風が吹く。意味の分からない前置きをして、彼は話を始めた。その足元のピカチュウは既に臨戦態勢で、こちら側にいるバクフーンとにらみ合っている。

 ヒビキは返事の代わりに、ごくりと唾を飲みこんだ。

「君は、誰の意思でそこにいるか答えられる?」

 シロガネ山の頂上には、自分たち以外には誰もいない。もう随分遠くなったふもとに、ポケモンセンターがあるのみだ。

 雪が降っている。なのに、不思議だ。本来あるべき刺すような冷たさを感じることは、無い。

「ぼくはここに来るまで、何もわからなかった。ただ、何か得体の知れないものに操作されて、自分の意志がどこにあるかもわからないまま旅を続けていた」

 バクフーンの背中の炎に、雪が落ちては融けて消えていく。それでも景色は白い。その先に青空があるなんて信じられないほどに、色のない世界だ。

「何のための旅かは分からなかった。何となく浮かぶ道筋をひたすら追い駆けていた」

 よく喋る奴だ、と思った。その声からは、声を出すこと一つにさえ、喜んでいるような昂揚が感じられた。恍惚としているようにも思えた。何故だか嫌な気分になって黙って睨み付けるが、相手は怯む様子もなく淡々と話を続ける。

「そんなぼくの旅には欠かせない人物がいた。君もここにいるなら会ったろ、グリーン…」

 名前を口にした一瞬、その喜びが頂点に至ったような表情を見た、気がした。しかしその顔はすぐに切なげなものに変わる。

「グリーンという名の、やたら挑発的な少年。いや、もう青年かも知れない」

 たしかトキワのジムリーダーの、とヒビキはその姿を思い浮かべる。でもなぜ目の前の彼が、あの人を知っているのだろう。

 その疑問を見透かしたかのように、彼は話を続ける。

「彼は……」

 雪は止まない。静かな山頂に時折吹く風は雪を躍らせるだけで、山の景色は微動だにせず時を止めたようにそこに在り続けている。

「ぼくのライバル、だった……いや、今でもそうだ」

 ライバル、という言葉に、浮かび上がる姿があるような気がして、でも、吹雪の向こうに霞んで見えない。

「きっと君にもいるんだろうね、ライバルと言うにはちょっと張り合いがなくて、積極的で鬱陶しくて」

 話し続ける彼の選ぶ言葉は相手を馬鹿にしているようにさえ聞こえるのに、声は酷く切ない音をして、雪と雪の間に震えている。

「だけど無視できない、ライバル」

“ヒビキ!”

 吹雪の音をかき分けて、赤い髪の生意気な少年の声が聞こえた。そういえば今頃どうしているのかと思う。竜の穴にいると聞いたのはいつのことだっただろう。

「ぼくはね、彼に届きたかった。バトルの力じゃない。ぼくも欲しかったんだ、自分の意志が」

 声は依然として切なげに響いている。風が吹いている。雪が、舞う。目の前の少年は喋り続けるのに、自分はまるで耳しか持っていないみたいに、それを聞き続けることしかできなくて。

「レッド、レッドとぼくの名を呼んでは、負けるためのバトルを挑んで、それでも前に進む彼に届きたかった」

 頭の中で、赤い髪の彼が自分の名前を呼ぶ。一方的に挑発的な言葉をまくしたてる。

 俺は彼の名前を知っているけれど。

「名前を呼びたかった」

 呼んだことは、あっただろうか。いつもその背中を見送ってはいなかったか。

「追いかけたかった」

 追いかけたこと?あるわけがない。ただ、見送っていた、それだけが真実だった。彼に名前を呼ばれて、一方的な話を聞いて、背中を見送って。

「グリーンが目の前でぼくに笑いかけるのに、ぼくは動くことも話をすることも、笑いかけることすら」

 そしてどうした?

「できなかったんだ」

 何もしなかった。できなかった。 

 なら、それはどうして?

 今、苦しげに歪んでいるのは目の前の彼の顔か、それとも自分の顔か。

 わからない。何も。なぜこの足はいつも、いつまでも、何度呼ばれても、動かない、動けないままで。

「だから、ぼくはここにいた。誰もいないここで、ただの“レッド"になれる日を待った」

 恐る恐るうかがった彼の表情はかたいままで、しかし、どちらかと言えば微笑みだった。

 それはまるで、何かから、解放されたような。

「ぼくを倒してくれる誰かが、この世界に現れるのをずっと待っていたんだ」

 自由を手に入れた、獣のような。

 安らかに獰猛な目元は、この人が今までの誰より強いのだということをヒビキに教える。

 レッドの足元で、ピカチュウの頬がピリッと小さな火花を散らす。

 緊張がはしる。

「君が」

 雪は降りつづける。まるで世界の初めから終わりまで景色を変えるつもりがないような静けさで、降る。

「新しい主人公?」

 次第に力のこもる声を聞く。なぜか、何とも言えない、とても嫌な気持ちになった。自分が自分でないような、感覚。

 錯覚?

「やっと、きてくれた」

 レッドの声が喜色を含むと、ヒビキの心は反比例して酷く悲しく苛立つ。

 どうして?

 帽子のつばの影の下できらりと光ったレッドの瞳がついにこちらをとらえるとき、背筋が、ゾクリと粟立った。

(これでやっと、彼に触れられる)

 その瞳から声ではない、その、彼のこころが確かに聞こえた。挑発的な目元、赤い色の少し長い髪、そう、シルバーの背中が、残酷に遠のいていくのを感じる。

 風の音が聞こえてくる。今更、冷たさが肌を指す。緊迫した空気が、相手の本気を嫌という程伝えてくる。ここはまさしく、どんなジムより、誰が準備したフィールドより、バトルに相応しかった。

「とりあえず」

 隣で、バクフーンが腰を落とす。レッドの足元のピカチュウが上体を伏せる。炎と電気がそれぞれにバチリと爆ぜるような音をたてた。

「バトルしようよ」

 シロガネ山には、ただただ冷たく刺すような空気が満ちている。

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