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氏綱実堯
『触りたい、触れない』
初めて見た背中は乱世にすくっと伸びて眩しく、思わず手を伸ばしそうになったことはきっと忘れない。共に戦えたならとさえ思った。「父上?」まだ遠いが僅かに近づいて今手を伸ばせば触れられるかもしれないけれど「あれが北条氏綱だよ、義堯」きっとそれは許されないから視線だけでも届けばよかった。
『ふたりぼっち』
「二人でいると」
人払いの済んだ小部屋で揺れるのは灯火のみ。
「一人よりも寂しくなるのは、きっと」
内通の話が漏れたと実堯は言った。
「君や義堯のこれからに」
それは別れを意味していた。
「在れないことが悔しいからだね」
「…ッ」
在れる道もと言いかけて黙る。近づく夜明けを憎んでも、星は巡った。
氏康義堯
『届かない距離にいて』
わからない。北条氏の進出を目の前で見てきたから知っている。彼がとても、強いことは。勢力だけ比べたら里見など小さい。なのに戦って生き残っている事実を自分の強さだと奢れるほど愚かではなかった。「舐めんなよ氏康」本気はまだ見えない。命の応酬をしようとするには、まだ届かない距離にいて。
『それ以上は許さない』
「もとより、貴殿の許しなど」
甘えた声と裏腹な視線の獰猛さは正に獅子、義堯の腹の底は嫌な震え方をした。
「乞うてはおらぬ」
骨が割れる程の拘束に抵抗は薬味、有るのと無いのでは味が違う。たとえ結果が同じでも。
そう、侵略者は許しなど乞わない。理不尽に蹂躙する。
忘れるな、お前は俺を侵すのだ。
又長
『守りたいものは』
守りたいものは隣にあったはずだった。最後に見たのは笑顔ではなかった。「後藤殿はいつも空を見上げておられる」真田に言われた時には否定したけれど確かに今俺は空を見ていた。目に移る青さくらいしか、俺とあいつを繋ぐものはもう、ない。"又兵衛"空から声が降ってきた気がして、俺は目を閉じた。
『たとえばの話』
「そんな話はしたくない」
長政の顔がくしゃと歪む。お前がいなくなるなんて。声のか弱さに喜ぶ自分が。
「たとえばですよ」
いつまでも側に居られる筈がない。
「それでも嫌だ」
依存は弱さになり瓦解の引金を引く。そういう時代だ。
「嫌だ」
許されずとも構わない。弟の様な主君の、その安寧だけを望んだ。
清行
『ゆびきりげんまん』
「思い出した」今とは違うかつての人生の約束を。守れなかった約束を。「遅いわ、あほ」今度は忘れんといてな、そう差し出された小指に自分の小指を絡めたら思っていたより暖かい。「あの時代にもこんな遊びがあったら」ゆびきりげんまん、彼の歌声は今世でも柔らかい。「俺に針千本飲ませたか、行長」
『サービストーク』
「煩い」
はて、どこで違えたかと小西は逡巡した。人と話すのは得意なはずだ。凡その齢と、目つきで警戒心、装飾品で価値観を探りつつ相手が気持ちよくなる話題を振って情報を抜く。
「話をするなら」
初見で看破とはこれはなかなか。
「お前の話にしろ」
「つれへんなぁ」
厄介なことに、なりそうだ。
村官
『ひとりじめ』
「随分重宝されているな」「おかげさまで」その顔から、かつての無垢さを奪ったのは。「まるでお前が天下取りをしてるみたいだ」彼は選ばれているふりをして、自分が選ぶ、見極めている。「あのまま、ひとりじめして下されば」誘惑するような声を教えたのは、「貴方が天下、「やめろ」俺なのだろうか。
『運命なんて、くそくらえ』
「これもさだめでしょうか」
官兵衛が言うと村重は思い切り顔をしかめた。虫を見つけたような忌々しげな表情だった。
「そんなもの」
諦めるということのできない男はその言葉をひどく嫌う。
「糞食ら、」
下品な言葉を咎めるようにその唇を塞いでしまう。
「食らうのはいつも私です」
眉間の皺が濃くなった。
石田福島
『運命という罠』
若い衆の笑い声が一際高く響いたとき、篝火の奥に幻を見た。
“市松、貴様本当に阿呆だな”
嘲るような言葉でも許せた。彼の、佐吉の表情がまだ優しかった頃。
「正則」
「…清正か」
刃を向け合う運命の上、あの日の笑顔は心を捕える罠の如く、重く。
「行くぞ」
「あぁ」
踏み出す足の怠さが酷かった。
『触りたい、触れない』
初めて見た背中は乱世にすくっと伸びて眩しく、思わず手を伸ばしそうになったことはきっと忘れない。共に戦えたならとさえ思った。「父上?」まだ遠いが僅かに近づいて今手を伸ばせば触れられるかもしれないけれど「あれが北条氏綱だよ、義堯」きっとそれは許されないから視線だけでも届けばよかった。
『ふたりぼっち』
「二人でいると」
人払いの済んだ小部屋で揺れるのは灯火のみ。
「一人よりも寂しくなるのは、きっと」
内通の話が漏れたと実堯は言った。
「君や義堯のこれからに」
それは別れを意味していた。
「在れないことが悔しいからだね」
「…ッ」
在れる道もと言いかけて黙る。近づく夜明けを憎んでも、星は巡った。
氏康義堯
『届かない距離にいて』
わからない。北条氏の進出を目の前で見てきたから知っている。彼がとても、強いことは。勢力だけ比べたら里見など小さい。なのに戦って生き残っている事実を自分の強さだと奢れるほど愚かではなかった。「舐めんなよ氏康」本気はまだ見えない。命の応酬をしようとするには、まだ届かない距離にいて。
『それ以上は許さない』
「もとより、貴殿の許しなど」
甘えた声と裏腹な視線の獰猛さは正に獅子、義堯の腹の底は嫌な震え方をした。
「乞うてはおらぬ」
骨が割れる程の拘束に抵抗は薬味、有るのと無いのでは味が違う。たとえ結果が同じでも。
そう、侵略者は許しなど乞わない。理不尽に蹂躙する。
忘れるな、お前は俺を侵すのだ。
又長
『守りたいものは』
守りたいものは隣にあったはずだった。最後に見たのは笑顔ではなかった。「後藤殿はいつも空を見上げておられる」真田に言われた時には否定したけれど確かに今俺は空を見ていた。目に移る青さくらいしか、俺とあいつを繋ぐものはもう、ない。"又兵衛"空から声が降ってきた気がして、俺は目を閉じた。
『たとえばの話』
「そんな話はしたくない」
長政の顔がくしゃと歪む。お前がいなくなるなんて。声のか弱さに喜ぶ自分が。
「たとえばですよ」
いつまでも側に居られる筈がない。
「それでも嫌だ」
依存は弱さになり瓦解の引金を引く。そういう時代だ。
「嫌だ」
許されずとも構わない。弟の様な主君の、その安寧だけを望んだ。
清行
『ゆびきりげんまん』
「思い出した」今とは違うかつての人生の約束を。守れなかった約束を。「遅いわ、あほ」今度は忘れんといてな、そう差し出された小指に自分の小指を絡めたら思っていたより暖かい。「あの時代にもこんな遊びがあったら」ゆびきりげんまん、彼の歌声は今世でも柔らかい。「俺に針千本飲ませたか、行長」
『サービストーク』
「煩い」
はて、どこで違えたかと小西は逡巡した。人と話すのは得意なはずだ。凡その齢と、目つきで警戒心、装飾品で価値観を探りつつ相手が気持ちよくなる話題を振って情報を抜く。
「話をするなら」
初見で看破とはこれはなかなか。
「お前の話にしろ」
「つれへんなぁ」
厄介なことに、なりそうだ。
村官
『ひとりじめ』
「随分重宝されているな」「おかげさまで」その顔から、かつての無垢さを奪ったのは。「まるでお前が天下取りをしてるみたいだ」彼は選ばれているふりをして、自分が選ぶ、見極めている。「あのまま、ひとりじめして下されば」誘惑するような声を教えたのは、「貴方が天下、「やめろ」俺なのだろうか。
『運命なんて、くそくらえ』
「これもさだめでしょうか」
官兵衛が言うと村重は思い切り顔をしかめた。虫を見つけたような忌々しげな表情だった。
「そんなもの」
諦めるということのできない男はその言葉をひどく嫌う。
「糞食ら、」
下品な言葉を咎めるようにその唇を塞いでしまう。
「食らうのはいつも私です」
眉間の皺が濃くなった。
石田福島
『運命という罠』
若い衆の笑い声が一際高く響いたとき、篝火の奥に幻を見た。
“市松、貴様本当に阿呆だな”
嘲るような言葉でも許せた。彼の、佐吉の表情がまだ優しかった頃。
「正則」
「…清正か」
刃を向け合う運命の上、あの日の笑顔は心を捕える罠の如く、重く。
「行くぞ」
「あぁ」
踏み出す足の怠さが酷かった。
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